イタリアンな朝
「ボンジョールノ」
耳元で囁く声にうすく目を開くと、
白い光を照り返す明るい髪がすぐそこでゆれていた。
「コンツィオーネだよ、兵助くん」
「……は?」
タカ丸の口から出る聞きなれない横文字で目を覚まされ、
兵助は目を擦りながら顔をしかめた。
「今日の朝食はイタリア風、なんちゃって」
朝食という言葉に、もうそんな時間なのかと兵助はむくりと起き上がる。
ベットから這い上がってテーブルを覗き込むと、
パンとビスケットとホットミルクコーヒーという、タカ丸の作る朝食にしては簡素なメニューが並んでいた。
昨日は白飯と味噌汁と前の日の残りものらしい豚の角煮。
一昨日は来ていないけれど、3日前はパンケーキだった。
しかも生クリームとワッフル付きの。
「実はなにも材料なくて…ちゃんとしたもの作れなくってごめんね」
「いや、ぜんぜん…」
作ってくれるだけでもありがたいのに情けなさそうに言うものだから、
兵助は慌てて首を振った。
タカ丸はそれに安心したように笑い、「じゃあ食べようか」と兵助の椅子を引いた。
「今日は晩御飯食べに来るの?和食にしようかなぁって思ってるんだけど」
「うん、行く」
「じゃあ作っておくね」
ぱきっと乾いた音を立ててビスケットをかじり、
タカ丸は今日の献立なににしようかと考え始める。
野菜はおいもとにんじんがあるし、と冷蔵庫の中身を思い出しながら呟く。
兵助はそんなタカ丸を眺めながら、頬杖をつきつつパンにかぶりついた。
(そういえば、さっきなんて言われたんだっけ。
…ボンジョールノ?
確かイタリア語で「おはよう」の意味だったか)
「…イタリア語話せるのか?」
「うん?あー…ちょっとだけ。
父さんについて海外いろいろ行き渡ってたから」
「へぇ…」
兵助さして興味をもっていない様子で相槌をうった。
それにしてもなにかにつけて器用というか様々な顔をもった男である。
「今度一緒に旅行行こうね」
と能天気なタカ丸が笑って言ったのを、バカか学生が海外なんかいけるかと聞き流して、
でも異国のおそらくきれいな町並みをこいつと歩くのもきっと悪くはないんだろうと眠たい脳味噌で考えた。
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