「兵助」
友人や先生にだって呼ばれる名なのに、
こいつに呼ばれるといつだって心臓の正常は乱れる。
また、今日は一段と甘いくせに棘がある嫌味ったらしい声で呼んでくる。
押し倒されて大人しく見上げる顔は優しげな笑顔。
どうやら機嫌が悪いらしい。
その理由は思いつくが、ほんの些細で、しかも正当ではないものだ。
「あれは…ちがうって」
「知ってるよ、ただのお友達でしょ?
でも、兵助に触れる人や近づく人なんて、
俺にとっちゃやきもちの対象でしかないよ」
そう言って剥き出しにした肩に吸いつく。
はっきりと見えるところにはつけないが、
見えるか見えないか危ういところを敢えて色づかせてくる所なんて、本当に性悪だ。
皮膚が熱い。
舌が首筋を上下に這いまわってまた肩へ。
そのたびにちくりと肌を痛めつけて朱に染める唇は、
乱れ始めた俺の息に満足げに笑った。
「赤が好きでしょう、兵助」
聞くな、知ってるくせに。
くすんだ赤のお前の髪やお前に残される鮮やかな血色を、
俺がどうしようもなく愛しいなんて感じてることくらい、
お前が一番知ってるだろうが。
だからくだらないことで拗ねるな、馬鹿め。
お前以外の奴の前でこの心臓は乱れやしないんだ。
「…俺だけのものって証、兵助、もう満更でもないもんね」
ほら、肌を這うお前の舌のせいで俺はもうまともじゃいられない。
心臓の動きは荒れて、気が狂う。
そうだ、赤がどうしようもなく俺を悦ばせる。
俺はお前のものだ。
浅ましいほどに束縛するのもされるもの好きなお前は、
くだらない理由で誰かに妬いては俺をさらに縛りつけようとするが、
そんなもの、俺だって同じなんだからな。
お前方が余罪だって多いくせに、勝手に妬いて俺を乱しやがって。
俺だってお前を縛りつけておきたいの、分かってるだろう。
「タカ丸…っ」
名前を呼ぶ。
そうすればお前が嬉しそうに笑うのを、俺は知ってる。
震えそうな手で乱暴に赤い髪をひっとらえて引っ張った。
その痛みにさえお前は悦ぶんだ。
馬鹿だな、お前も俺も。
「お前も、俺だけのだから、な…っ」
乱れた声でそう告げると、
馬鹿なお前は馬鹿な俺を馬鹿みたいに愛おしそうに見つめる。
その目にすらもう、心臓がさらに乱れるって言うのに、
「そうだよ。この身も心も、俺の全部はあなたのものだ」
お前の口から吐き出されたその声で言われると、
そんなこと十分に知っているのに、
やはり、俺は正常でなんていられない。
***
赤タカは久々知先輩が自分のことすっごい好きなの知ってるし、
久々知先輩も赤タカが自分のことすっごい好きって知ってます。
でもそれでも妬く。束縛心異常なくらい。
でもお互いにそれがたまらなく嬉しい、とかそんな赤タカくく。
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