「三郎次くんの髪、綺麗だねぇ」
不意に、後ろ髪に指先が触れた。
その行為にはいい加減もう慣れたもので、
ため息とともに「そうですか」と素っ気無い返事をして仕事を続けた。
「俺があげたシャンプー使ってる?」
「…さあ」
「使ってるよ。匂いで分かる」
「じゃあ聞かなくていいでしょう。
それより仕事さっさと終わらせてください」
「終わったもーん」
その言葉に振り返って目線を上げると、
タカ丸さんは目を細めてほら、と在庫表を見せてきた。
確かに終わってる。
この人、なんだかんだいっても、要領はいいな。
俺は早くと仕事を終わらせたくて再度タカ丸さんに背を向けると、
さっさと帰ればいいのにタカ丸さんはまたしても髪に触れてきた。
職業柄か、癖か、習慣か、気まぐれか。
どうでもいいけど鬱陶しい。
「伸ばせばいいのにー、勿体無い」
「……嫌です」
「長いのは嫌い?」
「俺は、」
「あの人の代わりじゃないですよ」
呟いてから、背を向けたままでもタカ丸さんが驚いたのが分かった。
指先の動きがぴたりと止まり、そして離れた。
どんな顔をしてるのか、そう思い、僅かに振り向いて肩越しに覗くと、
タカ丸さんは金髪のしたでそっと笑っていた。
「三郎次くんは代わりなんかじゃないよ」
その声の柔らかく静かなこと。
思わず目を見開くと、タカ丸さんと目があった。
タカ丸さんはそう言うだけ言って、じゃあお先にとくしゃりと俺の前髪を撫でて、
たいした足音も立てずに焔硝蔵から立ち去っていった。
暗に、あの人の代わりなんてお前にはできないと、そう言われた気がした。
それがどうした。
突き放された、逃げられたと思うくらいなら言わなきゃいいのに。
どうしてため息をつく必要がある。
「…馬鹿らしい」
***
タカ丸は気付いてても気づいてなくてもいいけど、
気付いていたらふにゃふにゃしながらうまくはぐらかしてそうです。
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